めまぐるしく変化していくVUCA時代。働き方も大きく変わっている現代では従来の組織の在り方が見直されています。組織をまとめるリーダーはどのようなマネジメントを行なっていくべきなのか。
比較的新しいビジネスワードである「ティール組織」と「サーバントリーダー」に絡めながら説明していきます。
VUCA時代の特徴と現況
VUCAという言葉自体は2010年代に入ってから使われだしたものですが、現在ほど実感する時はないかもしれません。コロナ状況下になって一層ビジネスを取り巻く環境は変化し続けています。
VUCAという言葉は下記に示されるように時代の特性を4つの言葉にまとめたものです。
1つずつ見ていきましょう。

Volatility(変動性)
ビジネスの手法や顧客ニーズが絶え間なく変化している状況を表します。世界中で気候変動や自然災害など予知できないものが頻繁に多発しており、これまでの対応では対処できないという特徴があります。
Uncertainty(不確実性)
現在のコロナによる影響のように不確実性が大きい状況では将来の売り上げ予測が立てられず、先の見通しを立てるのが厳しくなります。突発的な事項以外にも、少子高齢化や地域の過疎化といった継続して徐々に影響を及ぼす物事に対しても同様のことが言えます。
Complexity(複雑性)
1つの成功したビジネスモデルを他国や他企業で実践してもうまくいくわけではありません。複雑化した現在では個々の要因が非常に多くビジネスに影響します。アメリカや欧州などクレジットカードが浸透している国に比べ、日本は現金での支払いがまだまだ主流です。同様にキャッシュレス化は開発途上国を含めて広い地域で広まっていますが日本では浸透スピードが遅く、日本独自の価値観が影響しています。そのように受け入れる土壌に合わせたシステムが必要となります。
Ambiguity(曖昧性)
上記3項目と同様に先の見通しが立てにくい要因の一つが曖昧性です。急激に変化し将来予測が立てられない、また突発的な原因により経営判断に影響を及ぼす可能性があります。
台頭する企業と衰退する企業
VUCAは現在のビジネスに対して使用されていますが元々はアメリカの軍事に対して使用されていた言葉でした。1900年代に既に存在していたワードです。
将来に向け発展していくことが企業に求められていますが、この「将来」とは何年後のことを指すのでしょうか。昔であれば世代交代が起こる15~25年程を指していたでしょうが、現在は5年先でさえわからなくなっています。まさにVUCAの時代なのです。
例えばカメラに関していえば、一般向けには使い捨てカメラやフィルムが主流でしたが、コンパクトなデジタルカメラを経て現在はスマートフォンでの撮影が主流となっています。スマートフォンのカメラ機能が格段に上がったことがカメラをわざわざ購入するという選択肢を排除しました。プロの仕上がりを求める人やこだわる人もいるので一定の市場はありつつも、マジョリティとしてはスマートフォンに軍配があがっているのです。例えば、富士フィルム株式会社はその名称の通り写真や印刷関係の事業だけでなくメディカル分野にも進出しています。そのまま写真だけに固執していては生き残れなかったでしょう。
VUCA時代に求められるティール組織とは何か!?
近年注目される「ティール組織」は組織論の一つです。その特徴はチーム全体が目的のために進化を続け、その意思決定にはメンバー一人一人が独自に判断していくことにあります。上司が指示により細かくマネジメントするのではなく、チームメンバーが自ら行うことがポイントです。
ティール組織までの5段階
ティール組織は突然現れた組織形態のように思われがちですがそうではありません。従来の組織の特徴を内包しています。これまでの組織形態を5段階で下記に表示します。

もっとも古い形態であるレッド組織は「オオカミの群れ」と称されるようにリーダーに従わないといけないという脅威によって支配される組織です。圧倒的に強い力を持つリーダーが存在しており、明らかなブラック企業やマフィア・ギャングといった世界でしか見られないかもしれません。
次にアンバー組織が挙げられます。こちらはレッド組織から進歩して、階級などの制度と権力が組み込まれています。軍隊や政府機関、宗教団体がこちらに該当します。ピラミッド型の権力構造が特徴で、指示はトップダウンで行われます。組織の中で階級が存在することで個々の役割がわかりやすくわりふられ、長期的に安定した組織を築くとされますが、変化の多い時代には対応がそぐわない組織形態です。
オレンジ組織ではアンバー組織のようにピラミッド型ではありますが、個人が成果によって昇進でき上を目指すことができるものです。しかし競争が行なわれることで過重労働を引き起こし労働問題につながります。日本の高度経済成長期はこれがあてはまるのではないでしょうか。
次にグリーン組織ではより個人の能力を活かし人間らしく働ける組織形態です。これはメンバーに合意を求め、現場に十分な裁量を与えるボトムアップ型の意思決定方法が行なわれます。これによりメンバーの意思が尊重され働きやすいものとなりますが、メンバーの合意に膨大な時間がかかり経営判断の遅れにつながることもあります。そのため、メンバーの多様性は認めつつも実態はマネジメント側に判断が行なわれるというヒエラルキーが存在します。
これまでの4つに対しティール組織はリーダーが存在しない、という状態です。個々のメンバーが多くのことを決定し必要な行動を行なっていきます。組織を自主経営していくので各メンバーが組織の在り方や目標に対して理解が充分であることが求められます。自主性をもって取り組むので個々が存在意義を感じ組織の発展に寄与します。
ティール組織は今後の理想的な在り方
ティール組織は2014年にフレデリック・ラルーによって提唱されました。著書「Reinventing Organizations」の中で紹介され、日本語版は2018年に発刊されています。実際のところすべての要素を兼ね備えている組織というのはこの本の中でも紹介はされていません。現在の先進的な企業では「ティール組織」の一部が取り込まれた「達成型組織」という形態でしょう。理想的な組織の在り方ですが今後どのように変化していくか気になるところです。
サーバントリーダーとこれまでのリーダーの違い
リーダーが存在せずに各メンバーが自主的に意思決定と行動を行なっていくのがティール組織でしたが、実際はまだ理想的な組織形態といえます。また、そのようなティール組織を目指していても事実上リーダーは存在しているでしょう。そこでリーダーの在り方の一つとして注目されているサーバントリーダーについて説明します。
サーバントリーダーの特徴
サーバントとは「使用人」「召使い」という意味の英語から来ています。サーバントリーダーといっても部下の使用人として働くのではなく、ビジネス用語として「支援型リーダー」と称されます。これまでトップダウン型のリーダーは部下に指示を出すことで組織をまとめ、目標達成を目指していました。しかしサーバントリーダーはビジョンや目標はしっかりと提示するものの、メンバーを支え方向性をサポートしていくものです。ではサーバントリーダーが存在するチームの場合、どのような意識でメンバーは行動するのでしょうか。従来の支配的リーダーとの違いを挙げてみます。

上記のように支配的リーダーに対する行動は組織にとってネガティブな面も存在しますが、サーバントリーダーの場合はポジティブな姿勢に変わっています。これは組織にとって良いことであることは間違いありません。
ポジティブなメンバー意識が組織を強くする
ここで在宅勤務が増加し続けている現在の状況と照らし合わせてみましょう。
極端なことをいえば、自宅に監視カメラが付いていない限り、勤務時間帯に家で何をしているかを逐一把握することはできません。
メールの送信時やリモート会議時、チャットで会話を行なっているときだけパソコンに向かえば済んでしまうかもしれません。この状況ではどうしても個人がどのように時間を使うかといった裁量が任されることになります。
同じ8時間勤務でも業績をあげられる社員と、モチベーションの管理が不十分な社員に分かれることもあります。そこでサーバントリーダーは在宅のメンバーに対して声かけや業務の進行状況を対話する形で確認を行うことが求められます。
特に今は今後の状況がどうなるかわからないため、業務でも細かく修正する判断が求められます。
サーバントリーダーが存在する組織では部下の働き方も上記図のようなものとなるため、たとえ在宅勤務であっても達成能力は変化しません。部下の意見や見通しを聞き、方針に取り入れていくことも必要な時代にこのようなリーダーは望ましいでしょう。
サーバントリーダーのデメリットとティール組織との共通点
上記のようにサーバントリーダーが組織をより効果的に強くしていく方法であることは理解できるかと思います。一方でデメリットが無いわけではありません。
部下自らが自発的に業務を行っていくことが求められる以上、チームメンバー側の素質も問われることになります。自ら考え実行していくメンバーにとっては働きやすいものとなるでしょう。しかしいわゆる「指示待ち」の人にこれは厳しいといえます。トップダウン組織で慣れ過ぎたため、自ら行動をおこしていくスキルが無い状態ではまずは自己判断のスキルを身につける必要があります。また、その業務に新しく就いたメンバーについて最初はある程度教える必要があるといえます。
これはティール組織のデメリットともいえるのではないでしょうか。ティール組織もサーバントリーダーもその本質を理解していければ馴れ合いの組織となってしまう可能性があります。リーダーの形態が変わるからこそ、一人一人のモチベーションが不可欠といえます。
これからの時代の組織の在り方
ビジネスにおけるマネジメントは数あるビジネスカテゴリーの中でも重視されてきたものです。ワールドワイドで変わっていく現在の変化に対応した会社を作り、社内の組織をより強くすることが一層求められています。今後どのように組織づくりを展開していくかが今後の発展のポイントとなるでしょう。